- 自己破産すれば奨学金の返済義務は免除される
- 保証人がいる場合は自己破産すると迷惑がかかる
- 奨学金の返済の免除や猶予が受けられる制度がある
- 自己破産以外の方法で奨学金の負担を解決することもできる
返済不能に陥った奨学金は、自己破産をすることで解決可能です。なぜなら、自己破産を行うと原則としてすべての借金(債務)の返済義務が免除されるためです。多大な奨学金の返済が免除になれば、返済に追われる生活から開放されます。
ただし、自己破産にはそのようなメリットだけではなく、デメリットも多く存在します。したがって、奨学金を自己破産で解決しようとお考えの方は、手続きの開始をする前に自己破産のメリット・デメリットを理解しておくことが重要です。
この記事では、
・自己破産すると奨学金の返済が免除される仕組み
・連帯保証人に影響は及ぶのか
・自己破産以外の解決方法
これら3つについてわかりやすく解説します。
奨学金の返済は自己破産で免除される
奨学金の返済は自己破産で免除することが可能です。その仕組みを解説します。
自己破産をすると、原則として全ての債務の返済義務が免除されます。ただし、一部の債務については免除されないことが破産法で定められています。また、債務者本人の返済義務が免除されても、保証人に影響が及ぶことがあります。
自己破産で免責される債務の種類とは
自己破産を申し立てた後、裁判所の決定によって債務の返済義務が免除されることを「免責」といいます。破産法では、原則として全ての債務が免責されるものの、以下の債務については例外的に免責されないと定められています。
【自己破産で免責されない債務一覧】 |
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・税金や社会保険料などの公租公課 |
奨学金は以上のリストに該当しないため、自己破産によって免責を受けることができます。
自己破産をすると保証人が請求を受ける
貸与型の奨学金に保証人をつけている場合、債務者本人が自己破産をすると残債務の返済について保証人が請求を受けます。保証人は主たる債務者が返済できなくなった場合に代わりに返済する義務を負っているため、請求を拒むことはできません。
日本学生支援機構では、両親や親族の中から連帯保証人と保証人の2人をつけることとされています。
したがって、債務者本人が自己破産をすると、両親や親族に影響が及ぶことになります。
機関保証の場合は親族に影響は及ばない
貸与型の奨学金を利用するには保証が必要ですが、保証には次の2種類があります。
・人的保証
・機関保証
人的保証とは、保証人をつけることをいいます。
もう一方の機関保証とは、保証機関による保証制度を利用することをいいます。保証人が不要となる代わりに、奨学金から一定の保証料が差し引かれます。
機関保証を選択した場合は、債務者が自己破産をすると保証機関が残債務を返済するので、親族に影響が及ぶことはありません。
奨学金を抱えて自己破産することによるメリットとは
奨学金を抱えて自己破産すると両親や親族に影響が及ぶ場合もありますが、自己破産には大きなメリットがあります。
ここでは、自己破産のメリットについて具体的にご説明します。
債務の返済義務が全て免除される
自己破産の最大のメリットは、債務の返済義務が全て免除されることです。
1,000万円を超える負債もゼロになりますし、奨学金の他にカードローンやクレジットカードなどの債務があっても全て免責されます。したがって、負債のない状態で人生の再スタートを切ることが可能になります。
差押え手続きが停止される
自己破産を申し立て、破産状態にあることが裁判所で認められると差押えなどの強制執行手続きが停止されます。
引き続き財産調査や債権者への配当手続きに移る場合は、既に行われていた強制執行手続きが失効します。給料を差し押さえられていた場合は、すぐに給料の全額を受け取ることができるようになります。
ただし、配当する財産がなく破産手続がすぐに終了する場合は強制執行手続きが中止されるものの、免責が確定するまで失効はしません。
中止されている間に受け取れなかった給料は、免責確定後にまとめて受け取ることができます。
ある程度の財産は手元に残せる
自己破産をしても、全ての財産を処分しなければならないわけではありません。次の財産は手元に残すことができます。
・99万円以下の現金
・20万円以下の財産
自動車についても、法定耐用年数を経過したものは処分不要です。
自己破産をすることによって当座の生活に困るようになることはありません。
奨学金を抱えて自己破産することによるデメリットとは
多額の負債が一度に免責されるという大きなメリットがある自己破産ですが、一方では以下のようなデメリットもあります。
ここでは、自己破産のデメリットを具体的にご説明します。
保証人に迷惑がかかる
保証人がついている場合、主たる債務者が自己破産をすると保証人が残債務の返済について請求を受けます。
この場合、原則として保証人は一括払いを請求されます。保証人が支払えない場合は、保証人も自己破産しなければならないこともあります。
財産を処分する必要がある
ある程度の財産がある場合は、自己破産手続によって財産を処分・換金して債権者に配当する必要があります。
99万円以下の現金と20万円以下の財産は処分不要ですが、マイホームなど大きな財産は手放さなければなりません。
借入やクレジットカードの利用ができなくなる
自己破産をするということは、返済義務のあった債務を返済しないということです。この場合、信用情報機関に事故情報として登録されます。
この状態が、いわゆるブラックリストに掲載される状態になります。ブラックリストに掲載されると、事故情報が消去されるまで借入やクレジットカードの作成・利用はできなくなります。
自己破産の場合、10年間は事故情報が消去されないといわれています。
手続き中は仕事ができなくなる場合がある
自己破産をすると、以下のような資格や職業について制限を受けます。
【自己破産手続き中に就くことができない職業(一部)】 |
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・保険外交員 |
ただし、資格や職業の制限を受けるのは自己破産手続き中だけです。免責が確定した後は、どのような資格や職業にも就くことができます。
公租公課など免除されない債務もある
自己破産をして免責を受けても、公租公課や損害賠償金など一定の債務は免除されません。
税金や社会保険料などを滞納している場合は、完済しなければ給料などを差し押さえられるおそれがあります。
奨学金を抱えて自己破産する前に考えるべき解決法とは
日本学生支援機構は、奨学金の返済が難しくなった人のために救済措置を設けています。所定の手続きを行って審査が通れば、返済の免除や猶予、月の返済額の減額を受けることができます。
ここでは、自己破産する前に利用できる3つの救済措置についてご説明します。
返還免除制度を利用する
以下の要件のいずれかを満たすときは、奨学金の未返済額の全部または一部が免除されます。
・本人が死亡した場合
・本人が精神もしくは身体の障害により返済できなくなった場合
就職後にうつ病を発症するなど心身に不調をきたした場合、奨学金の返済が免除される可能性があります。
減額返還制度を利用する
次のいずれかの理由で奨学金の返済が困難となった場合は、一定期間について返済月額が減額されます。
・災害
・傷病
・その他経済的理由
経済的理由による場合は、原則として年収が325万円以下であることが条件です。
条件を満たせば、返済月額が2分の1または3分の1に減額されます。
減額される期間は原則として1年(12か月)ですが、最長15年(180か月)まで延長することも可能です。
減額された分は免除されるわけではなく、後で返済しなければなりません。そのため、返済期間は延長されます。
なお、返済を延滞している場合は減額返還を申請することはできません。
返還期限猶予制度を利用する
年収が300万円以下の場合は、奨学金の返済を一定期間、猶予してもらうことができます。
猶予の期間は、最長で10年(120か月)です。
返済を延滞している場合も、返還期限の猶予は申請することができます。
なお、猶予の制度は返済を先送りするだけなので、返済期間は延長されます。
自己破産以外で奨学金の負担を解決する債務整理方法とは
日本学生支援機構の救済措置にもメリットはありますが、適用要件が厳しかったり、減額返還や返還期限の猶予では免除が受けられないため、解決できない場合もあるでしょう。
そんなときに、自己破産のデメリット回避しつつ奨学金の負担を解決する債務整理方法についてご紹介します。
任意整理を行う
任意整理とは、裁判所を介することなく各債権者との間で個別に話し合うことによって債務の返済方法や返済額を変更する手続きのことをいいます。
自己破産の場合は全ての債務を裁判所に申告する必要がありますが、任意整理の場合はどの債務を整理するかを自由に選べるメリットがあります。
奨学金以外の債務を任意整理して奨学金の返済を継続すれば、保証人に迷惑がかかることはありません。
ただ、任意整理では将来利息のカットは可能であるものの、基本的に元金を減額することはできません。そのため、大幅に返済額を減らすことは期待できないというデメリットがあります。
奨学金の他にも多額の借金があり、それらの借金の返済額を減らせば奨学金を返済できるという場合は、任意整理によって解決することができます。
個人再生を行う
個人再生とは、裁判所に申し立てることによって債務を原則として5分の1に減額し、残債務を3年~5年間で分割返済する手続きのことです。
債務の大幅な減額が可能ですが、自己破産と同じように裁判所を介するため、全ての債務を裁判所に申告する必要があります。そのため、保証人が残債務の返済について請求を受けるというデメリットも自己破産の場合と同じです。
保証人は原則として一括返済を求められますが、交渉次第では分割払いが認められる可能性もあります。その場合、主たる債務者も余裕があれば保証人の返済を手伝うという解決法も考えられます。
個人再生の場合は、住宅資金特別条項を利用することによって、住宅ローンを返済しながら他の債務を大幅に減額することが可能です。
奨学金を抱えて返済に困っているものの、マイホームを手放したくない場合に大きなメリットがある解決方法といえます。
奨学金の負担を自己破産等で解決するために弁護士・司法書士ができること
奨学金も自己破産をすれば免責を受けることができますが、保証人に迷惑がかかったり、財産を処分しなければならないといったデメリットを避けることができません。
自己破産以外の債務整理方法を活用することで解決図ることもできますが、どのような方法で解決すればよいのかを一般の人が判断するのは難しいものです。
そこで、奨学金の負担を解決するためには弁護士や司法書士に依頼するのがおすすめです。
奨学金の問題を弁護士・司法書士に依頼するメリットは以下のとおりです。
・自己破産する場合のデメリットについて具体的なアドバイスが受けられる
・自己破産以外の解決方法を提案してもらうことができる
・複雑な手続きを全て代行してもらえる
まとめ
自己破産をすれば、奨学金も含めて全ての借金の返済義務から免れることができます。しかし、デメリットについても事前に確認しておかなければ取り返しのつかないことにもなりかねません。
弁護士や司法書士に依頼すれば、自己破産のデメリットを避けて解決する方法を見つけることができますし、さまざまな手続きの代行などのサポートも受けることができます。
専門家の力を借りて、奨学金の返済の負担を解決しましょう。