- 任意整理・自己破産には借金額の制限はない
- 個人再生には借金の上限下限がある
- 債務整理するか否かは自己都合で決めてよい
- 債務整理費用と借金額によってはマイナス収支になることがある
現在の日本では、20人に1人が多重債務を抱えていると言われており、債務整理をすることは一般的になっていると言えます。しかし、「債務整理は借金がいくらからできるのか」「自分の借金額で債務整理はできるのか」といったことについて不安に思っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、債務整理はいくらからできるのか、そして債務整理に着手すべき条件と判断するための基準について説明します。
債務整理ができるのは借金がいくらからなのか
結論から言うと、債務整理をするための借金額の条件は原則ありません。借金が少額あるいは多額であっても可能です。ただし、債務整理の種類によっては例外的に法律で条件が課されているものもあります。以下で個別に説明します。
任意整理 | 個人再生 | 自己破産 |
---|---|---|
制限なし | 100万円〜5,000万円 | 制限なし |
任意整理は金額制限なし
任意整理とは、債権者と任意に交渉することによって借金の利息をカットし、残りの借金を事前に決めた返済計画に従って返済する債務整理です。
債権者と交渉をするかしないかはあくまで当事者の自由であり、法的な規制は存在しないので、任意整理は借金がいくらあってもすることができます。要は、任意整理の条件は「債務者が任意整理をしなければならないほど苦しい状況にある」ことだと言えます。
ただし、金額的な条件がないと言うことは、裏を返せば、任意整理の成功は完全に当事者間の交渉次第であるということになります。そのため、「一般的に任意整理が上手くいくための基準とされているもの」は存在します。
例えば、債務者に一定の収入があること、借金を返済する意思があること、返済を継続できる将来性があること、などが挙げられます。
個人再生の金額制限は100万円~5,000万円
個人再生をすることができる条件については民事再生法によって定められています。個人再生では、住宅ローンを除いた借金の総額が5,000万円以下、というのが金額的な上限です。
そして、下限については「最低弁済額」(最低限度の返済額)が100万円と規定されています。
すなわち、個人再生の金額的な条件は「100万円〜5,000万円」ということになります。
自己破産は金額制限なし
自己破産は、必要最低限の財産以外は失う代わりに、借金を全て帳消しにする債務整理です。つまり、この制度は、借金の額に関わらず多重債務に苦しんでいる人を救済し、健全な生活への復帰を後押しするものであり、自己破産をするための借金額の条件はありません。いくら借金があってもすることができます。
自己破産手続きの開始が裁判所に認められるための条件は、「返済不能状態にある」ということです。返済不能状態か否かは、現在の資産・収入・信用といった本人の経済力と借金額を照らし合わせて、客観的かつ相対的に判断されます。
ですから、もし借金額が10万円でも、無職で財産もない状態なら自己破産が認められる可能性はありますし、借金額が1,000万円でも、高収入の職についていたり、資産が豊富にある場合は自己破産が認められないこともあります。
債務整理に着手すべき基準となる条件とは
債務整理は、基本的には「返済が難しい」「生活が苦しい」と感じた時にするべきものです。ただ、一般的に債務整理をしたほうが良いと考えられている基準・成功しやすい基準というものがあります。
つまり弁護士・司法書士に相談をしに行った時に債務整理をすることを勧められる可能性が高いと言えるような基準が存在します。
任意整理できる条件と基準
任意整理では、債権者と利害調整の話し合いをする中で合意にたどり着く必要があります。ですから、債権者が納得できるような条件を揃えておかないと、任意整理を成功させることはできません。
条件の一つが、元本を返済する意思があるということです。債権者は利息をカットしたとしてもせめて元本は回収したいと考えるので、債務者自身に強い決心がなく生半可な気持ちで交渉しているのではないかと思われると任意整理はうまくいかなくなります。ただ、この主観的な意思はそこまで厳密に審査されることはありません。
そして、3〜5年間の分割払い(36回〜60回払い)で借金を完済できる資力があることも条件です。債務者は、返済期間があまりに長期になると返済されないのではないか、と考えるので一般的には長くとも5年間の返済期間で返済が可能であることが要求されます。
例えば、利息を除いた借金が150万円ある場合、月々2万5千円を支払うことができることが条件になります。
しかし、逆に言うと、この2つの条件さえ揃っていれば任意整理は比較的簡単に着手することができます。借金の延滞が長引いて利息が溜まっているという方や、毎月の支払額を減らしたい、という方は任意整理を検討すべきであると言えます。
個人再生できる条件と基準
個人再生は自己破産とは違って、借金額を減額する代わりに、返済計画に従った分割返済で残りの借金を返すことが前提とされる債務整理です。ですから、借金額に対応した最低弁済額が法律によって定められています。
借金総額 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 | 借金額 |
100万円以上500万円未満 | 100万円 |
500万円以上1,500万円未満 | 借金額の5分の1 (100万円〜300万円) |
1,500万円以上3,000万円未満 | 300万円 |
3,000万円以上5,000万円以下 | 借金額の10分の1 (300万円〜500万円) |
ゆえに、自分の借金の総額に対応した最低弁済額を3〜5年間(36回〜60回払い)の分割払いで支払うことができることが条件の一つとなります。例えば、借金額が1,500万円の場合、最低弁済額である300万円を5年で割った、月々5万円を返済できることが必要です。
一方で、この基準によると、借金総額が100万円以上5,000万円以下であれば、いくらであっても借金を大幅に減らすことができます。そして、金額が多ければ多いほど減額幅は大きくなっています。ゆえに、借金額がこの範囲にあって返済が苦しい人は個人再生をすることがおすすめです。
また、個人再生には、「清算価値保証の原則」というものがあります。これは、自分が所持している財産をお金で見積もった時の金額は最低でも返済しなければならないという原則のことです。例えば、個人再生をする際に100万円相当の車を持っていた場合、最低でも100万円は返済しなければなりません。
このことから、個人再生は、借金額は数百万円〜数千万円であり、資産をほとんど保有していない場合にとるべき方法であると言えます。
自己破産できる条件と基準
自己破産に踏み込むべき基準は、「任意整理や個人再生では借金問題を解決できない状態にある」ことです。自己破産は借金を帳消しにする、債務整理の最終手段ですので、他の手続きでは生活を立て直すことができないような場合に選択すべきであると言えます。
また、自己破産では、自宅を失うことで引っ越しが必要になったり、弁護士・会計士・貸金業者・警備員などの職業に就けなくなる「職業制限」が課せられるため、それまでの生活を一新する必要が出てくるかもしれません。この点は忘れないようにしましょう。
債務整理の費用でマイナス収支にならないように注意すること
債務整理をするためには、裁判所費用・手続き料・弁護士・司法書士費用などのまとまった諸費用が必要となります。一般的な相場で言うと、任意整理では5〜10万円、個人再生・自己破産では30〜80万円程度がかかります。
債務整理の費用も意識しておかないと、借金を減額することができても結局マイナス収支になってしまう可能性もあります。債務整理でカットできる金額と諸費用を照らし合わせて、利益が出る時に債務整理に踏み切ることが重要です。弁護士・司法書士への相談の際に収支予測を計算してもらうと良いでしょう。
まとめ
「債務整理はいくらからできるのか」という質問に対しては、「個人再生における例外を除いては基本的に金額の限定はありません」というのが回答になります。
債務整理に踏み切るか否かは借金額ではなく「借金を返済できない状況にあるか」「返済が厳しいか」という基準で決定するべきです。
そして、具体的な手続きを進めるには、弁護士や司法書士といった専門家のサポートが不可欠です。彼らは、債務整理に精通し、実績と経験を兼ね備えたプロですので、現在の依頼者の状況に最適な借金問題の解決方法を提案し、スムーズに手続きを行ってくれます。
まずは専門家に相談してみることから始めてみましょう。