- 特定調停は法人や個人事業主も利用可能
- 特定調停をするにはある程度の収入が必要
- 特定調停では自分で出廷して交渉しなければならない
- 弁護士・司法書士に依頼すればすべての手続きを任せることができる
特定調停は、簡易裁判所で行われる民事調停の一種で、比較的簡単な手続きで借金を減縮することができる債務整理方法の一つでもあります。
弁護士や司法書士といった専門家に依頼しなくても申し立てが可能なので、わずかな実費のみで債務整理ができるというメリットもあります。
ただ、誰もが特定調停を利用できるわけではありません。特定調停を申し立てるためには、金銭債務を抱えて支払不能に陥るおそれがあること、必要書類や手続き費用を準備できることなどの形式的な条件があります。
また、申し立ての形式的な条件を満たしていたとしても、あまりにも多額の借金を抱えているような場合には特定調停では借金問題を適切に解決できない可能性もあります。
この記事では、
・特定調停を申し立てるために必要な形式的条件
・特定調停で適切に借金問題を解決するための実質的条件
・特定調停の利用条件を満たさない場合でも借金問題を解決する方法
以上3点についてわかりやすく解説していきます。借金を支払いきれなくなり、特定調停に興味をお持ちの方のご参考になれば幸いです。
特定調停の利用条件を満たすかチェックする前に注意すべきこと
債務整理の方法には特定調停の他にも、次の3種類のものがあります。
「特定調停」は、4種類ある債務整理方法のうちの1つにすぎません。借金問題を適切に解決するためには、ご自身にあった債務整理方法を選ぶことが大切です。
そこで、特定調停の利用条件をご紹介する前に、ご自身の状況が特定調停に適しているかのご参考としていただくために、特定調停の概要についてご説明します。
特定調停とは
特定調停とは、簡易裁判所で調停委員を介して債務者と貸金業者が話し合い、借金などの債務の返済額や返済方法を変更する手続きのことです。
大まかな手続きの流れは以下のとおりです。
- 債務者が簡易裁判所へ特定調停を申し立てる
- 貸金業者が取引履歴を簡易裁判所へ提出する
- 調停委員が取引履歴に基づいて利息引き直し計算をする
- 調停期日が開かれ、計算結果を基礎として今後の返済額や返済方法を話し合う
- 合意ができれば調停が成立し、返済を開始する
以上の手続きの中で、債務者が貸金業者と直接話し合う必要はありません。専門的な知識を持った調停委員が中立・公平な立場で話し合いを仲介してくれるからです。
そのため、法律の知識があまりない一般の方も、調停委員のサポートを受けながら公平な話し合いを進めることができます。
法人や個人事業主も利用可能
特定調停を利用できるのは、借金を抱えた個人だけではなく、会社などの法人や、自営業者などの個人事業主も利用することができます。
特定調停法により、個人の場合は支払不能に陥るおそれがあることが要件とされていますが、個人事業主と法人の場合は、少し要件が緩和されています。
個人事業主については事業の継続に支障をきたすことなく返済を続けることが困難な場合、法人については資産よりも負債が上回るおそれがある場合に特定調停の利用が可能とされています。
借金の大幅な減額は期待できない
特定調停でどのくらい借金を減額できるかは、貸金業者との話し合い次第ですが、貸金業者の一般的な対応をまとめると、次の表のようになります。
特定調停による減額 | |
---|---|
元金 | 基本的に減額は不可 |
将来利息 | ほとんどの場合でカットが可能 |
遅延損害金 | カットに応じる貸金業者と応じない貸金業者がいる |
毎月の返済額 | 多くの場合で減額が可能 |
貸金業者は基本的に元金のカットには応じないため、借金の大幅な減額は期待できません。
ただ、将来利息はカットできますし、遅延損害金のカットが可能な場合もあります。その限りで、借金の返済予定額の減額が可能となります。
その上で、返済期間を延長することで毎月の返済額を減らすのが、特定調停による借金整理の基本的な方法です。
過払い金請求はできない
特定調停では、返済額や返済方法の話し合いを行う前に、貸金業者から提出された取引履歴に基づいて利息引き直し計算が行われます。その結果、過払い金が判明することもあります。
ただし、特定調停において過払い金請求をすることはできません。なぜなら、特定調停の目的は申立人が抱えている債務についての利害関係を調整することにあるからです。
過払い金が発生している場合、申立人に債務が存在しないことを確認することはできますが、それを超えて過払い金の返還を請求することは目的外となるのです。
したがって、過払い金の返還を請求するためには、調停外で別途手続きを行う必要があります。
調停後に返済できなくなると差押えを受けることがある
特定調停で返済案について貸金業者との間で合意に至ると、調停が成立し、調停調書が作成されます。この調停調書は、確定した判決と同一の法的効力を持ちます。
したがって、調停で取り決めた内容のとおりに借金を返済できなければ、給料や預金口座などの財産を差し押さえられることがあります。
そのため、返済を続けていることが難しいような内容で調停を成立させるべきではありません。
特定調停を申し立てるために必要な条件
それでは、特定調停を利用できる条件について解説していきます。
まずは、特定調停の申し立てが可能となるための形式的な条件をご紹介します。
金銭債務を負っている
まず第一に、金銭債務を負っていることが条件となります。
民法上の「債務」にはお金の支払い義務の他にも、引き受けた仕事を完成させる義務や売った物を引き渡す義務など、さまざまなものがあります。
しかし、特定調停の対象となるのはお金の支払い義務だけです。
支払不能に陥るおそれがあること
個人の場合、金銭債務を負っておるだけではなく、支払不能に陥るおそれがあることが特定調停の利用条件とされています。
ただ、「おそれ」があれば足りるので、借金を抱えていて返済が厳しくなった場合はこの条件を満たすと考えて問題ありません。
必要書類を準備できる
特定調停を申し立てるには、以下の書類をご自身でそろえて、管轄の簡易裁判所に提出する必要があります。
①特定調停申立書
②財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料
③関係権利者一覧表
④資格証明書
①~③については裁判所のホームページから書式をダウンロードできるので、利用しましょう。
資格証明書は、相手方(債権者)である貸金業者が法人である場合に必要です。その法人の現在事項全部証明書または代表者事項証明書を法務局で取得して提出します。
手続き費用を支払える
特定調停を申し立てる際には、以下の手続き費用を裁判所に納める必要があります。
①収入印紙
②郵便切手
収入印紙は、相手方(債権者)1名(1社)ごとに500円分が必要です。
郵便切手は、東京簡易裁判所の場合、相手方(債権者)1名(1社)ごとに430円分(84円切手×5枚と10円切手×1枚)が必要です。
ただし、郵便切手の金額や種類の組み合わせは裁判所によって異なるので、申立先の簡易裁判所でご確認ください。
また、資格証明書を取得するためにも以下の手数料がかかります。
・窓口で請求して受け取る場合:600円
・オンラインで請求して郵送で受け取る場合:500円
・オンラインで請求して窓口で受け取る場合:480円
以上の費用を合計すると、基本的に相手方(債権者)1名(1社)につき1,530円が必要となります。
仮に5社を相手として特定調停を申し立てる場合は、合計7,650円の費用を準備する必要があります。
特定調停を求める申述をする
特定調停は民事調停の特例なので、申立の際に特定調停を求める申述をしなければなりません。この申述をしない場合は、一般の民事調停として手続きが進められてしまいます。
もっとも、裁判所が提供している「特定調停申立書」の書式には、あらかじめこの申述が記載されています。
したがって、裁判所の書式を使用する場合には改めて申述の文言を記載する必要はありません。
特定調停を利用して適切に借金問題を解決するために必要な条件
以上の条件を満たせば特定調停の申立は可能ですが、借金の内容やその他の事情によっては、特定調停では適切な借金問題の解決を期待できない場合もあります。
そこで次に、特定調停を利用することで適切な借金問題の解決が可能となるための実質的な条件についてご説明します。
借金が多額でない
先述したように、特定調停では借金の大幅な減額は期待できません。
そのため、多額の借金を抱えている人が特定調停を申し立てても、返済が可能となるほどに借金を減額できないことがあります。
大まかな目安として、月収30万円の人が500万円~600万円の借金を抱えている場合には、自己破産または個人再生を検討した方がよいでしょう。
なお、個人再生を利用すると借金総額を100万円にまで減額できる可能性があります。したがって、100万円を超える借金を抱えている場合は個人再生を選択した方が経済的なメリットは大きいといえます。
返済可能な収入がある
特定調停では、調停成立後に借金を分割で返済していかなければなりません。返済期間は基本的には3年、長くとも5年までとされるケースが多いです。
仮に調停成立後の返済予定額が300万円だとすれば、毎月5万円~8万4,000円程度の返済を続けていく必要があります。
このような返済が可能な程度の収入を得られる見込みがない場合は、調停不成立となるか、調停委員から申し立ての取り下げを勧められます。
無理に調停を成立させると、先述したように調停調書の効力によって給料や預金口座などの財産を差し押さえられる可能性があります。
裁判所への出廷が可能
特定調停は貸金業者との話し合いの手続きなので、指定された調停期日にはご自身で裁判所へ出廷しなければなりません。
調停期日は月に1回程度のペースですが、平日の日中に開催されます。そのため、人によってはたびたび仕事を休む必要があるでしょう。
貸金業者と自分で交渉できる
貸金業者との交渉は調停委員を介して行いますが、調停委員は中立・公平な立場であり、債務者の味方として交渉してくれるわけではありません。
そのため、交渉を調停委員任せにしていると、貸金業者から一方的に不利な調停案を押し付けられるおそれもあります。
したがって、特定調停においても、適切な内容で調停を成立させるためには交渉力が必要となります。
特定調停の利用条件を満たさないときに借金を解決する方法
特定調停の利用条件を満たさない場合でも、借金問題の解決が不可能となるわけではありません。
債務整理の方法は他にもあります。以下のように、ケースに応じた解決方法が考えられます。
返済不能な多額の借金がある場合
多額の借金を抱えて返済不能な場合は、自己破産または個人再生が適しています。
自己破産によって免責が許可されると、すべての借金が免除されます。ただし、財産を処分する必要があったり、手続き中は一定の職業に就けなくなるなどのデメリットもあります。
個人再生の場合は、これらのデメリットなしに借金を大幅に減額することが可能です。ただ、やはり3年~5年の間は返済を継続しなければならないので、ある程度の収入は必要です。
裁判所への出廷が不可能な場合
裁判所への出廷が不可能なために特定調停を利用できないという場合は、任意整理を選択するとよいでしょう。
任意整理とは、特定調停とほぼ同じような手続きを、裁判所を介さずに貸金業者と直接話し合うことによって行うものです。
貸金業者との交渉は電話や手紙によって行われるので、仕事を休めない人や、家事や育児・介護から手を離せない人も利用可能です。
自分で交渉する自信がない場合
自分で貸金業者と適切に交渉する自信がない場合は、特定調停はもちろん、任意整理も適していません。
その場合は、個人再生か自己破産を選択することになるでしょう。どちらも法律に基づいて強制的に借金の減額や免除が認められる手続きなので、交渉力は不要です。
手続きは複雑ですが、正しく申し立てることができれば、借金問題を適切に解決することが可能です。
特定調停で弁護士・司法書士ができること
ここまで、特定調停をご自身で申し立てることを前提としてご説明してきました。しかし、弁護士・司法書士といった専門家に依頼すれば、以下のように状況が異なります。
・必要書類の準備や申し立て手続きを任せることができる
・調停期日に代理人として出廷してくれる
・専門家として適切に交渉してくれる
・弁護士・司法書士から受任通知を送付した時点で、取り立てがすぐに止まる
・専門的な立場から、最適な解決方法を提案してもらえる
特定調停の申し立て自体は難しくありませんが、借金問題を適切に解決するためには専門的な知識や交渉力も欠かせません。
そのため、特定調停を成功させるためには弁護士・司法書士といった専門家の力を借りることを強くおすすめします。
まとめ
特定調停の手続きは比較的簡単なので、少額の費用で借金を整理できると考えて、ご自身で申し立てる人が多いのも事実です。
しかし、この記事でお伝えしてきたように、返済できなくなった借金問題をご自身で適切に解決するのは簡単なことではありません。
専門家に相談すれば、申し立ての手続きや裁判所への出廷、貸金業者との交渉など、全面的にサポートを受けることができます。
専門家の力を借りて、特定調停を成功させましょう。